R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」 |
ラトルの解釈はオーソドックスなものだと思いますが、その普通なものを深く掘り下げ、目鼻立ちをくっきりさせ、ドラマ性を強調した演奏となっています。入念な譜読みの成果が今回のベルリン・フィルとの演奏に結実していることは、録音を通して充分感じられます。例えば "英雄" の 1'35"、低弦から始まり次々とリレーされていく旋律の流れの良さ (特にヴィオラソロ〜クラリネット〜ホルン〜弦の受け渡しが絶妙)、またその背景の伴奏のバランスなど、かなり綿密に設計された演奏だということが聴き取れます。万事がこの調子で、音楽が有機的に隙間なく呼応し合っている演奏です。"英雄の妻" の後半や "英雄の業績" でその練りに練られたバランス感覚が最大限に発揮さています。
正直言って、優等生的で物足りない、上手すぎて面白くないという印象も受けるのですが、超ハイレベルなことでも事も無げにこなすがために大したことをしてないように見えてしまうのと一緒で、やはりこれは凄い演奏だと思うのです。ラトルの演奏を聴いた後、他の演奏を聴き直すと、完成度や集中度で物足りなく感じます。スタンダードとはこういう演奏なのでしょう。 ラトルのたっての希望でカップリングされたという《町人貴族》は、明るく鮮やかな演奏で、3 曲目の金管のソロを聴いただけでもこの演奏には太鼓判を押せます。 これで録音が良ければ申し分無いのですが…。 |